扁桃腺はのどの奥の両側にある免疫(異物を排除する)に関与した組織ですが、
ウイルスや細菌等により炎症を起こし、赤く腫れ、のどの痛みや発熱を起こします。
以前は、「はい、あーんして」「扁桃腺炎ですね、抗生物質を出しておきましょう。」で終わっていましたが、
最近、のどを綿棒でこするだけですぐに正確に扁桃腺炎の原因が分かる迅速診断が可能となり、
診療の様子も変わってきています。知っておきたい3つの特殊な扁桃炎を紹介します。
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溶連菌感染症:
A郡β溶血性連鎖球菌と呼ばれる細菌の感染症です。
典型的な例では、ひどい咽頭痛、発熱、体、四肢、顔等にかゆみのある細かい赤い発疹が出現し、
舌が赤く苺様に見えます(苺状舌)。この発疹が出たものは以前は猩紅熱と呼ばれたものです。
吐気、嘔吐があることもあります。軽い場合は、咽頭痛だけや体の発疹だけの事もあります。
のどは扁桃腺、咽頭(のどの奥の壁)が赤く腫れ、扁桃腺に白いもの(白苔)が付着します。
また、軟口蓋(のどちんこの周囲)に小さい赤い粘膜発疹があります。
のどを綿棒でこすり、溶連菌がいるかいないかの迅速診断を行い5分で結果が分かります。
ペニシリン系またはセファロスポリン系の抗生物質の投与により2、3日以内に症状はうそのように消失し、
また他人への感染力も低下します。
しかし、菌がのどに残っていると以下に述べる合併症を起こすことがあるため、
溶連菌感染症と診断されたら抗生物質を1~2週間(当院では通常10日間)服用する必要があります。
抗生物質の服用がなかったり、十分でないと感染後しばらくして急性腎炎やリウマチ熱という合併症が発症することがあります。
急性腎炎は感染2週間前後に血尿(赤いおしっこ)、浮腫(むくみ)、高血圧(それによる頭痛)が出現します。
1ヶ月程の入院治療により治りますが、まれに急速に腎機能が悪化する例も報告されています。
リウマチ熱は最近はめったに見られませんが、感染1ヶ月後位に発熱、関節の痛みや腫れ、体にピンク色の発疹が出現します。
さらにこの疾患で恐いのは心臓弁膜症を引き起こすことです。
この2つの合併症は、抗生物質をきちんと服用すればまず心配はありません。
家族の方で溶連菌感染症の症状が少しでも見られる時は、感染している可能性がありますので、
早めに検査を受けられることをお勧めします。
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アデノウイルス感染症:
アデノウイルスは色々な種類がありますが、その中で3型によるものが多いといわれています。
咽頭痛(子供は訴えないこともある)、5日間持続する高熱が主な症状です。
高熱のわりには元気なのが特徴です。目が赤く充血するものは、咽頭結膜熱と呼ばれ、
塩素消毒の不完全なプールを介して流行することがあるためプール熱と一般に呼ばれています。
のどは扁桃腺、咽頭が赤く腫れ、扁桃腺に白いもの(白苔)が付着します。
この扁桃腺の変化は通常は発熱2~3日後に出現することが多いため、
発熱当初は熱の原因がはっきりしないことも稀でありません。
のどを綿棒でこすり、アデノウイルスがいるかいないかの迅速診断を行い15分で結果が分かります。
アデノウイルスに有効な抗ウイルス剤はありませんので、解熱剤等の対症療法が主体になります。
水分をしっかりとり、5日間我慢すれば、熱はうそのように5日後に下がります。
肺炎等の合併症はほとんどありませんが、5日以上熱が持続したり、
様子がおかしい時には早めに受診して下さい。
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伝染性単核症:
EBウイルスの初感染によるもので、咽頭痛、1~3週間持続する発熱、頚部リンパ節腫脹(首のぐりぐり)、
全身倦怠感が出現します。
のどは扁桃腺、咽頭が赤く腫れ、扁桃腺に白いもの(白苔)が付着します。
この疾患には、のどの迅速診断はないため、血液検査で診断します。
白血球が増加し、その中でも単核球(異型リンパ球)が増加するため伝染性単核症と呼ばれています。
EBウイルスに対するIgM抗体という感染初期に認められる抗体の出現により診断されます。
また、多くは肝機能障害も合併します。EBウイルスに対する有効な抗ウイルス剤はありません。
安静にして、症状に対する対症療法を行います。肝機能障害がひどい場合や、
状態が悪い場合は入院の適応となります。
また、種々の合併症(神経系、血液、心臓)も報告されていますので、慎重に経過を見る必要があります。
以上のように、のどが痛い場合に風邪と馬鹿にしないで、高熱がある場合や、
咽頭痛がひどい場合には必ず受診して、正確な診断を受け、
その病気にあった治療を受けることが必要です。
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